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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)222号 判決 1955年6月21日

上告人(控訴人) 東京食品工業株式会社

被上告人(被控訴人) 関東信越国税局長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士小林亀郎の上告理由第一点について。

原判決の確定するところに従えば、浦和税務署は昭和二五年六月三〇日附を以て本件更正決定をなし、上告会社取締役社長栗橋竹治宛の更正決定通知書並びに納税告知書を作成し、同日同税務署係員をして解散当時の同会社社長であつた東出寅吉方に持参させたところ、東出は異議なくこれを受領し、その後同年七月初旬右各文書を同会社の清算人矢部善夫に交付したことが認められる。というのである。そうだとすれば、右各文書が適法な受領権限ある者に交付されたのは昭和二五年七月初旬であつて、その時から起算すれば、同二七年五月二七日附の審査請求は法定の一箇月を経過した後になされたものであることが明らかである。従つて、被上告人がこの審査請求を不適法として却下したのは正当である、とした原判決には所論のような違法はない。論旨援用の判例はいずれも本件とは事情を異にする場合のものであつて適切でない。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、本件更正決定書には上告会社の代表者でない栗橋竹治の氏名が記載され、受領の権限なき東出寅吉に送達されたのであるから、かかる送達によつて意思表示の効果を生ずるものでないと主張する。しかし原判決の確定するところによれば、右書類は結局代表の権限ある清算人矢部に交付されており、上告会社はこの更正決定を不服として審査を求めたのであるから、これを自己に宛てられた更正決定として受取つたものと解されるのであつて、これを無効ということはできない。

なお論旨は納税告知書の送達がなかつたと主張するけれども、その送達があつたことは原判決の確定するところである。論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 河村又介 島保 小林俊三 本村善太郎 垂水克己)

上告理由

第一点 原判決は判例に違反する不法あるものである。

本件に於て上告会社は本件再審査の請求は期限経過のものでないことを主張したことは弁論の全趣旨に徴して明である。従つて原判決は本件更正決定並に納税告知書が控訴会社に送達されたのは何日であるかを明確に判示しなければその期間が経過したか否かを判示することができない。然るに原判決は「而して控訴会社の為した前記審査請求が右更正決定並に納付命令を不服としてその審査を求める趣旨であつたことは弁論の全趣旨によつて明であるから右はその通知を受けた日から一ケ月と定められた審査請求期間を既に経過した後になされたものであつて不適法たることはいうまでもない」と判断した。併しその一ケ月の決定期間は何時から進行するのか本件に於ては適法なる代表者に宛てたものでない文書を適法な受領権限なきものに交付したけれども結局適法なる代表者である矢部善夫に交付されたから適法の手続を経たというならばその交付が何時交付されたか、若し収税吏が東出寅吉に交付した時を以て送達の時とするならば若しも東出寅吉が一ケ月経過後に清算人に交付したとしたならばそれは清算人として知らざることに関して責任を負う不合理があるから清算人が之れを受領した時を以て起算点としなければならない。

従来大審院の判例では受領の権限あるもの並にその雇人その他同居の内縁の妻等に送達せられた場合の送達は有効なることを幾多の判例で示してあるけれども宛名人も相違し受領した者に何等の権限もないのにその効力があるということは前示判例の趣旨に反するのみならず期間の起算点を忘れて期間の経過したものだと判断したことは上告人がその適法な期間内であるとの主張に対して果して期間が適法であつたか又は経過後であつたかを判断するには先ず期間の起算日を審理判断すべきに拘わらず之を審理しないのであるから判断を遺脱した違法があるといわなければならない。原判決は後記判例の趣旨に反するから破毀せらるべきである。

(昭和二十五年(オ)第三九四号昭和二十八年十月一日判決判例集第七巻十号一〇二一頁判決理由後段参照)

判例援用部分「上告人は本件家屋の買収を請求する旨主張していることは原判決に示すところであるから原審は上告人のこの請求につき審理すべきであるにかかわらず判断を遺脱した違法がある………」との点

大審院明治四十五年(オ)第六六号同年三月十三日判決

同昭和五年(オ)第二〇二九号昭和木年二月一日判決

第二点 原判決は重要なる法律の解釈を誤りたる不法がある。

本件に於て被上告人が上告人の納付すべき租税に付更正決定を為し其の決定書は上告会社の法律上の代理人として代表者にあらざる栗橋竹治に宛て上告会社と何等関係なき他人の東出寅吉に送達せられたものであることは当事者間に争なく又被上告人はその納税告知書が上告人に交付せられたといい、上告会社は之を受領しないというている。そして原判決は「尤も控訴会社の代表者は当事者間に争のないように栗橋竹治から東出寅吉と変更になり更に控訴会社が解散した昭和二十五年六月五日以後は清算人矢部善夫がその代表者となり、且つ右解散並に清算人就任に関しては四月二十一日控訴会社から浦和税務署長にその旨通知があり、又その頃三回に亘り官報にその旨の公告があつたことは当事者間に争がないけれども前段認定に徴すれば前記取締役社長栗橋竹治宛の更正決定通知書並に納税告知書は当然控訴会社に宛てたものと解せられるからその代表者名義の誤記の如きはその書面の効力に何等の影響を及ぼさないものというべく、又当時前記東出寅吉は控訴会社を代表する権限がなく、従つて同人は右各書面を受領する権限がないことは明であるが、前段認定の如く右書面がその後同人から控訴会社代表者矢部善夫の手に渡り受領権限のある者に交付された以上右更正決定及納税告知書による納付命令は控訴会社に適法に告知されたものといわなければならない」と判示して更正決定並に納税告知書が適法に送達されたものと認めた。

けれども納税義務の発生するには更正決定の外納税告知書を納税義務春に送達しなければならないことは国税徴収法第六条同施行法第一条により明白でその納税告知たるや即ち納税義務者に対して送達しなければならない。

元来意思表示の方法は相手方に対する表示行為によつて之を為すべきもので関係者以外に到達したことにより効力を生ずるは特に法律の規定ある場合でなければならない。従つて上告会社に対する納税の告知は上告会社の代表者に宛てたる更正決定並に納税告知書を上告会社の代表者に送達すべきものなることは論を侯たない。然るに原裁判所は控訴会社の代表者を代表者にあらざる栗橋竹治の氏名を記載して受取人又は受領の権限なき東出寅吉に送達したのであるから斯る誤謬の送達により意思表示の効果を生ずべきものではない。

殊にその事実を知つたという事丈ではその効力を生じない事は当然である故に適法の通告に関してその事実を知つた事により法律上の効力を生ずるには特別なる法律の規定あるにあらざれば之れを認容することができない(民法第九十七条参照)然るに本件に於ては斯る規定がないのだから送達を擬制することを許さないのである。

然るに原判決は此意思表示に関する法則を誤解して上告会社の請求を棄却したのは違法であるから此点に於て原判決は破棄せらるべきものである。

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